言語と臨界期仮説

臨界期仮説(critical period hypotheses)とは

言語の世界で言われている臨界期仮説

臨界期仮説とは
臨界期とよばれる年齢を過ぎてから
第二言語を学び始めると
ネイティブスピーカーと同等の言語能力は
身につけることができない、という仮説。

*一般的にこう言った話はよく聞きます。
しかし、
研究者の間では言語の習得に関して
年齢が重要な要素であると考えられてはいますが、
はたして臨界期なるものが本当に存在するのか、
また、
存在するとしたら、どんな能力に対してなのか、
そして、
それは いつなのか、長い議論があり、
まだ、
仮説の域を出ていません。

臨界期仮説の事実

2020年から小学校で
英語の授業が行われるようになります。
その理由の一つに
上記の「臨界期仮説」があるのではないかと思います。
しかしながら、
この「臨界期仮説」についての正確な事実が
伝わっているのかどうか、
はなはだ疑わしい、と感じています。

「臨界期仮説」は
未だはっきりとした結論は出ていません。
ところが、ちまたでは
まことしやかな「臨界期仮説」が流布しています。

ここでは、どうして
この「臨界期仮説」が注目されるようになったのか、
その”もと”について、お伝えします。

幼児教育

甥っ子が生まれた時、
幼児学習や幼児の英語学習について、弟から相談を受けました。
相談内容は:

「大きくなってから始めても上手になりません」
「あなたのお子さんも手遅れにならないうちに
早く英語の勉強を始めましょう」
というびっくりするような文言で
幼児用のビデオやDVDの広告が届くというのです。

その広告の中に
「一歳でひらがなを習得」
「二歳で英会話ができるようになる」
「三歳で新聞を読む」といった話が
まことしやかに載っているとのこと。

もし、早期教育に乗り遅れたら、
もし、早期教育をしてあげなかったら、
子供の才能をつぶすことになってしまうのだろうか、
と心配しているのです。

幼児教室に通わせたほうがいいのか、
それとも、通わせない方がいいのか、
という相談でした。

幼児学習教室

そこで、実際に弟夫婦と一緒に
幼児学習教室の見学に出かけました。

教室では
幼児に「フラッシュカード」を使って
勉強をさせていました。

「これは何ですか。答えてください。」
先生は子供たちに
様々な写真、絵、色のカードを見せていきます。

子供たちは
それに対して瞬時に回答していくのです。

私にはとてもできないスピードです。

カードの種類は豊富で、漢字や論語までありました。

就学前の、脳の発達初期に
このような学習をさせることが
はたして本当にいいのだろうか・・・

私は直感的に違うのではないか、と感じました。

幼児教育の根拠

こうした幼児学習教室へ行くと
「賢い脳を育てるには時期が大切です」
「今のうちに○○しなければ手遅れになります」
などとうたっています。

この考え方の根拠が
いわゆる「臨界期仮説」ではないかと思います。

直感的に「違うのでは」と感じたのは、
この「臨界期仮説」は、
不正確なまま、広まってしまったからです。

以下に、
「臨界期仮説」という言葉が注目されるようになった
原因を見ていきます。

臨界期仮説の始まり

子猫の実験

「臨界期」と言う言葉は
D・H・ヒューベルとT・N・ヴィーガル
(ノーベル医学・生理学賞受賞者)が行った
子猫の実験から注目され始めました。

その実験はこうです。

二人は
生まれたばかりの子猫のまぶたを縫い合わせ、
数か月の間そのままにしておくと、どうなるのか
という実験を行いました。

縫合から数か月がすぎた時、まぶたの抜糸が行われ、
子猫たちは
ようやく目が開けられるようになりました。

その結果、どうなったでしょうか。

子猫たちは
目に映った物が何であるのか、
それを認識する機能(能力)を
失ってしまったのです。

つまり、
物は見えていても、それが何なのかが
わからないのです。

どうして、
こうしたことが起こったのでしょう。
おそらく

まぶたを強制的に閉じられてしまった子猫たちは
目が開けられない間、
視覚刺激が全くないという状態でした。

それは脳の視覚野が出来上がる時期に
外部刺激が得られなかったということです。
そこで、
脳の視覚野が発達できなかったと考えられます。

この子猫たちは
その後、どんなに日にちがたっても、
目に映った物が何であるのかを
認識することができるようにはなりませんでした。

認知機能が未発達のままで、
成長するということがなかったからです。
ここで、
認知機能の発達は決まった時期にしか起こらない、
という実験結果が得られたわけです。

子猫の実験からわかったこと

この実験から
見たり、聞いたりといった
様々な認知機能を獲得する場合
適切な時期があると考えられるようになりました。

その適切な時期は「臨界期」と命名されます。

子猫の実験から
人間にも「臨界期」があるのではないか、
と予想されました。

「臨界期」の意味拡張の始まり

この実験では
子猫たちの認知機能が発達する時期に
外からの刺激をすべて遮断しました。
その結果、
子猫の認知機能は育ちませんでした。

そこから、人間も同様だろうと考えられ、
「人間の幼少期においては
発達を促進させる外的な刺激を
与えることが欠かせない
と言われるようになっていったのです。

事実は、
「外的な刺激を遮断してはいけない」
と言うことだったのに。
(しかも、実験の対象は人間ではありませんでした。)

その後、
この「臨界期」が一人歩きを始めます。

この「臨界期」という言葉に
「この時期を逃すと手遅れ」
「この時期までが勝負」といった
切羽詰まった意味が付加され、
使われるようになっていきます。

臨界期と外国語

例えば、外国語習得の場合、
ちまたでは12歳ぐらいまでが臨界期だと
言われるようになりました。

その時期を過ぎてから外国語を学んでも
母語を使いこなすレベルにまで到達することは
困難である。そこで、
この時期までに外国語を学ばないといけない、
といったことが、事実かどうかは別として、
広まっていきました。

こうしたことが背景となり、
いろいろな書籍、スクール等で
「○○歳までに~しましょう」といった
根拠のない英才教育があふれ出てきます。

人にも臨界期が当てはまるのか?

猫の実験では
視覚野が発達する時期に、
外部からの刺激を全く与えないと
見たものを認識する機能は完全に失われました

しかし、猫と人間とでは違います。

猫の脳と違い、人間の脳の働きはかなり柔軟です。

人間は
脳の一部に障害を受けても別の部分が、
その障害を受けた部分の代わりに働き始め、
回復していきます。

具体例を上げましょう。

脳梗塞によって左半球の言語野が大きなダメージを受けた
成人の患者さんの話です。

発病当初、この人は完全に言葉が出なくなりました。が、
二か月ほどたつと、日常で使う言葉が回復してきました。

その人の脳を
光トポグラフィーという測定器で計測してみると、
ダメージを受けた反対側の脳が働き始めていました。

ダメージを受けた側の脳は
そのまま回復しないのではないかと思われていましたが、
左側の脳も少しずつ働き始めたのです。

右脳と左脳の言語野

もともと言語野は
右脳と左脳の両方にあります。

普段は左側が主として働き、
右側は抑えられていると考えられています。

一般的には右脳と左脳は完全に別のものと考えられ、
それぞれの特色が強調されています。

右脳は直感的な解釈をつかさどり、
左脳は論理的な解釈をつかさどる、と。

しかし、
人間の脳はそれほど単純ではありません。

「右脳を育てる」といっても、
その右脳の役割さえ、まだはっきとわかっていません。
ですから、
どう右脳を育てるのか、
その方法が簡単にわかるわけがないのです。

こうしたことからも、
「臨界期」を単純に人間に当てはめるには
無理があります。

次回は、言語に関する臨界期について
わかっていることを、
もう少し詳しくお伝えしたいと思います。

ではではニゴでした。

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