日本語の親族呼称

「親族呼称についての説明」の前置き

*結論を早く知りたい方は
ここを飛ばして、本題からお読みください。

NHKに「チコちゃんに叱られる」という番組があります。
今回のテーマが「親族呼称」についてでした。

これはうれしい!

日本語教師になって、
「日本語の親族呼称は難しい」と
ずっと心の片隅に引っかかっていました。

「いずれ、きちんと考えなくてはいけない」と
思うのはやまやま、他のことにかまけて
何もしてこなかったなあ・・・と深く反省。

こうした番組をやっていただくと、
本当に助かります。

日本語の「親族呼称」については
困っていらっしゃる方も多いと思いますので、
ここに書いておきます。

前置きが長くなってしまいましたが、
早速始めましょう。

「お兄さん、お姉さん」と呼ぶのに、
「弟ちゃん、妹ちゃん」と呼ばないのはなぜ?

答え:家族の呼び方は一番下の子を基準に決めるから。

<解説>

兄が妹を呼ぶときは
兄:由美子ちゃん

妹が兄を呼ぶときは
妹:お兄ちゃん

兄は妹のことを名前で呼びます。
「妹ちゃん」とは言えません。

妹の方は兄のことを「太郎君」などと、
名前では呼べません。
「お兄ちゃん」と言います。

これは一体どういうことなんでしょうか?

ここからは慶応大学名誉教授
鈴木孝夫氏(92歳)のお話です。

鈴木先生は言語学の世界では
とても有名な方です。

親族呼称の定義

親族呼称とは
家族を「お父さん」「お母さん」「お兄さん」「お姉さん」
などど、自分との関係で呼ぶことです。

日本では ふつう
目上の家族に対しては親族呼称を使う
という風習があります。

具体例を見ていきます

<例1>        
家族構成のイラスト

上の<例1>のイラストを見てください。
まず、夫を基準にして考えます。
夫は
父親を「お父さん」
母親を「お母さん」
と呼びます。

これは両親が目上の家族だからです。

<例2>

次に
<例2>のイラストを
見てください。

花子さんのお父さんが
家族をどう呼ぶのか
見ていきます。

父親は子供の花子さんを
「花子」
と名前で呼びます。

花子さんの子供、
つまり孫に対しても
「ゆり(ちゃん)」
と名前で呼びます。

<例1><例2>を見ると
上の世代が下の世代を呼ぶときには
名前を使っています。

下の世代が上の世代を呼ぶときには
「お父さん」「お母さん」のように
親族呼称を使っています。

ここまでのまとめ

まとめ(1)
上の世代が下の世代を呼ぶときには
名前を使います。

まとめ(2)
下の世代が上の世代を呼ぶときには
「お父さん」「お母さん」のように
親族呼称を使います。

どうして目下の世代は目上の世代を
名前で呼ばないのか?

そもそも日本では
「名前」を直接呼ぶのは失礼にあたる
という考え方がありました。

その結果、親族呼称が使われるようになった
という経緯があります。

名字と名前



 

名字はその人の家系を表し、
名前はその人個人を表します。

日本では
名前は遠い昔から
その人自身(個人)を表してきました。
そのため名前は
とても「神聖なもの」であると考えられてきました。

そこで、
人を名前で呼ぶことは
その人を支配することであり、
とても無礼なことであると考えたのです。

ここから、家族の間でも
目上の人には名前を呼ばずに
「親族呼称」を使うようになり、
今でもその風習が残っているのです。

母親は下の世代の娘(長女)に
どうして「お姉ちゃん」という親族呼称を使うのか? 

ここで
さらなる疑問が
わいてきます。

まとめ(1) で
上の世代が
下の世代を呼ぶときには
名前を使うと書きました。

ところが、
母親が長女を呼ぶとき
「お姉ちゃん」という
親族呼称を使います。

なぜ、母親から見て
下の世代である娘に
「お姉ちゃん」という
親族呼称を
使うのでしょうか?

具体的に見ていきましょう。

(例1)第一子誕生

太郎さん夫婦に
子供が生まれます。
その子供は
名前で呼ばれます。

 

 

 

(例2)第二子誕生

太郎さん夫婦に
二人目の子供が生まれます。
最初に名前で呼ばれていた
長女は「お姉ちゃん」と
呼ばれるようになります。

 

 

 

(例3)第三子誕生

太郎さん夫婦に
三人目の子供が生まれます。
名前で呼ばれていた
長男は「お兄ちゃん」と
呼ばれるようになります。

一番下の次女は
名前で呼ばれます。

このように
家庭内に子供が生まれると
一番下の子供を基準にして
呼び方が
変化していきます。

常に一番下の子は
名前で呼ばれます。


一番下の子供を基準にするので、
その子から見た
「お兄ちゃん」「お姉ちゃん」
はいても、
「弟ちゃん」「妹ちゃん」は存在しないことになります。

ですから、
「弟ちゃん」「妹ちゃん」という呼び方は
使われないのです。

どうして一番下の子供が基準になるのか?

では、
どうして一番下の子供が
基準になるのでしょうか?

それは
家庭内の混乱を避けるためです。

下のイラストを見てください。

 

 

 

この家族の場合
子供たちのお母さんと
たろうさんのお母さんと
二人いることになります。

そのため、
一番下の子を基準にし、
その子のお母さんを家族の誰もが
「お母さん」と呼び、
混乱を防いでいるのです。

一番下の子にとって
たろうさんのお母さんは
「おばあちゃん」です。

そこで
家族の誰もが一番下の子に合わせて
「おばあちゃん」と呼びます。

こうして
子供が生まれることによって
家族構成が変化しても
混乱しないようにしているわけです。

夫婦の呼び方 

一番下の子を基準にすることで
変化していくのが夫婦の呼び方です。

パターン1:恋人同士の場合

恋人同士の場合、名前で呼び合います。

 

 

 

パターン2:結婚した場合

結婚した二人は
「恋人」から「妻」と「夫」
の関係になります。
そこで
「あなた」「おまえ」などと呼び合います。
(新婚さんの場合、
名前で呼び合う人も多い
のではないかと思うのですが・・・)

 

 

 

パターン3:子供が生まれた場合

子供が生まれると
「妻」から「母」へ
「夫」から「父」へと変わります。

 

 

 

 

パターン4:孫が生まれた場合

自分の子供に子供が生まれる、
つまり「孫」が誕生すると
「母」から「祖母」へ
「父」から「祖父」へと変化します。

 

 

 

 

終わりに

今まで
何も考えずに、ごく自然に
家族に対して、こうした呼び方をしていました。

現代では
各々の家族によって、
呼び方を変えているケースも
多いのではないでしょうか。

核家族化が進んだため、
呼び方を変えることができるようになった
とも言えるでしょう。

私の友人は 
もう結婚して三十数年ですが、
いまだにお互いを
「~さん」と呼び合っています。

また、子供が生まれても
「名前で呼んでください」とリクエストしている
家族もあるようです。

皆さんのお宅では
どんな呼び方をなさっていますか?

ではではニゴでした。

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