「隣」と「横」その1

位置詞

「上」「下」「前」「後ろ」
などのように、
位置を表す言葉を
位置詞といいます。

今回は位置詞

となり」と「」について考えます。
そして
最後になってしまいますが、
「隣」と「横」とよく比べられる
「そば」についても解説します。
(「その2」か「その3」で
書いていこうと思っています。)

まずは
かなり長くなりそうなので、
結論を先に書いておきます。

「となり」「横」「そば」の結論

横 :水平方向にある。
隣 :360度方向で、一番近くにある。
そば:手の届く範囲にある。

では、解説していきます。

「隣」と「横」の定義

「隣」も「横」も
並んでいる、あるものの位置関係を示す言葉です。
つまり、位置詞の仲間です。

」とは
・水平方向に並んでいる、
その線上にあるものです。
・並んでいるものは同種でも異種でもOKです。

「隣」とは
・同じ種類のものが並んでいます。
・最も近くにあるものを指します。
・それは水平方向に並んでいるとは限らず、
360度の方向が可能です。

どうして
・上記のような定義になったのか、
・果たして、この定義でいいのか、
また、
・定義を読んだだけでは、
ちょっと抽象的でわかりにくい・・・
そこで、
もう少し具体的に、詳しく考えていきます。

位置詞:「隣」と「横」

・机のとなりにミラーさんがいます。

学習者から
こうした文を提示された時、
どのように訂正しますか?

 

一般的には
どういう状況で、
この発話をおこなったのかを尋ね、
前後の文を確認していくのが王道です。

しかしながら、ここでは
あえて王道を省略し、
位置詞にスポットを当てていきます。
すると、

学習者の文:
・(あの)机のとなりにミラーさんがいます。

訂正した文:
・(あの)机のにミラーさんがいます。

上記のように
となり」を「」にと
直すのではないでしょうか。

 

私たち日本語教師は
こうした位置詞の
ちょっとした意味の違いを
尋ねられることがよくあります。

位置詞について考える時には
いくつかのポイントがあります。

「隣」と「横」について
分析していく前に、
様々な位置詞を考察するときの
ポイントを書いておきます。

位置詞を分析する際のポイント

「前」「うしろ」「上」「下」
といった位置詞の意味を分析するとき
次の3点について、
重点的に考えます。

(1)まず、浮かぶイメージは
・点的か、線的か、面的か。
・その位置を示す時
接触しているのか、
非接触でもいいのか。

例えば
接触、非接触の場合については
「上」を例に挙げます。

 

 

 

上記イラストの例1は
円が線に接触しています。

例2は接触していません。

「上」の場合
円の位置は
線に接触していても、
接触していなくても、
「上」が使えることがわかります。

(2)基準点は必要か。
そこに、方向性は絡んでくるのか?

(3)同じ種類のもの同士の位置を述べるのか、
全く別種のものでもいいのか?

以下は
同種か、異種かの具体例です。
(例1)
椅子椅子を重ねます。

(例2)
椅子を乗せます。

例文1、2をみると
」という位置詞は
同種の物にでも(椅子椅子
異種の物にでも(椅子いぬ
使えることがわかります。

ここからは
「となり」と「横」についてです。
「横」のほうから見ていきます。

「横」:辞書の意味

」と聞いたとき
まず、思い浮かぶ言葉は何でしょうか。

「上」と「下」
「前」と「うしろ」

のように、
」といえば「」を
イメージする人も
多いのではないでしょうか。

ある辞書では
」の意味を8つに分けて
説明していました。

そのうちの6つの例が
」の反対語、となっています。

「横」の意味(辞書から)

※「縦」と関係のある意味
(1)水平の方向。また、その長さ。⇔縦

(2)左右の方向。また、その長さ。⇔縦

(3)立体や平面の短い方向。側面。⇔縦

(4)東西の方向。⇔縦

(5)身分、階級などによらない、
同列あるいは別種のもの同士の関係⇔縦

(6)織物の横糸。⇔縦

※「縦」と関係のない意味
(7)物のかたわら。脇。
(例)横を見る。

(8)無関係の立場、局外。
(例)横から口を出す。

 

こうして辞書をみてみると、
」と「」の結びつきこそが
中心的な意味だと考えられます。

「上」に対する「下」
「前」に対する「うしろ」
の関係に近いと言えます。

 

ここから、
「横」と「隣」について考察していきます。

ヒントとなるのは
「位置詞を分析する際のポイント」
で述べた、
次の3点です。

(1)基準点と方向性

(2)・点的か、線的か、面的か。
・・・・接触か、非接触か。

(3)同種か、異種か。

この3点について、一つ一つ
検証していきましょう。

 

(1)基準点と方向性

1.基準点・方向性のある「横」

 

 

 

 

 

 

はがきのように、
上下の方向が
決まっている(基準がある)ものは、
その基準によって、
どちらが横で、
どちらが縦かが
決まります。
本や絵画も同様です。

多くの物には
上下を決める
何らかの指標があります。

そこで、
上下方向が縦になり、
水平方向が横となります。

しかしながら、
川や道路のように
上下の基準のないものは
水の流れや、車の流れが
その代わりとなります。

流れの方向性に沿っているのが「縦」
流れを横切るのが「横」です。

 

 

 

(2)基準点

また、
・「に並ぶ」
・「に並ぶ」
と言うときには
基準点が必要となります。

 

 

 

 

 

例えば
この図が教室だとします。
青い四角形が
教師の席、教卓となります。

この場合の基準点は
この教卓となります。

そこで
基準点(教卓)に向かう方向が
(に並ぶ)で、
基準点(教卓)と平行に並ぶのが
となります。(下の図)

 

 

 

 

 

 

2.基準点・方向性のない「横」

例えば
居間に無地の長方形の絨毯が
敷いてあったとします。

この絨毯は 無地ですし、
上下の基準がありません。

さて、
どちらが縦で、
どちらが横になるのでしょうか。

このような場合は
二辺の長さを比較して、
長い方が「縦」
短い方が「横」
となります。

 

 

 

 

 

 

 

 

次に
A4サイズの紙を例に挙げます。

紙には上下方向がありません。
(上下の基準がありません)

そこで
長い方が縦、
短い方が横となり、
が290ミリ、が210ミリ
のように言います。

 

「横」は(2)点的か、線的か、面的か。

四角形の角(かど)から角までを
一辺と言います。

これからも
」は線的だということがわかります。

例えば、文章でも
横書き、縦書きがあり、
横は
水平方向に伸びていくイメージがあります。

「横に並ぶ」も線的で、横に伸びていきます。

 

 

 

横は点的ではないため、
青い人の「横」に座っている人とは
黒い人全員を指すことができます。

(3)同種か、異種か。

●下のイラストを見てください。
違った物が置いてあります。
これは

 

 

 

 

 

 

 

クマのぬいぐるみを
基準点とした場合、

赤いマグカップと時計は「
青いマグカップは「うしろ」
テニスボールは「前」となります。

 

●次のイラストはどうでしょうか。
上の異種の物が置いてあったイラストと違い、
同種の色違いのマグカップが置いてあります。
ここでは

 

 

 

 

 

 

 

真ん中にある
赤いマグカップを基準とします。

黄色いマグカップと緑のマグカップは「隣」
黒いマグカップは「前」
青いマグカップは「うしろ」となります。

 

ここまで、
「位置詞を分析する際のポイント」
3点「横」について考察してきました。

(1)
基準点と方向性

(2)・点的か、線的か、面的か。
・・・・接触か、非接触か。

(3)同種か、異種か。

「横」については
もう少し考えるべき点があるのですが、
次回(「隣」と「横」その2)に記します。

→「隣」と「横」その2

 

●「近く」「そば」「わき」について
ご覧になりたい方は
以下をクリックしてください。

→「近く」「そば」「わき」

 

 

ではではニゴでした。

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