「近く」「そば」「わき」

位置詞

「右」「上」「下」「前」「間」
などのように、
物(者)の位置関係を表す言葉を
位置詞と言います。

形としては

(例)浅草駅ので、会いましょう。

のように位置詞
「名詞+の(→浅草駅+の)」のうしろに来ます。

位置詞である
「隣」と「横」の解説をしたときに、
「そば」についても、
ざっくりとした意味を載せました。

横:水平方向にある。
隣:360度方向で、一番近くにある。
そば:手の届く範囲にある。

「隣」と「横」について詳しく知りたいときは
以下をクリックしてください。

→「隣」と「横」その1

→「隣」と「横」その2

今回は
「近く」「そば」「わき」
について、以下の順番で
詳しく解説していきます。

1.近く
2.そば
3.「近く」と「そば」の違い
4.わき
5.  「わき」「そば」「近く」の比較

1.「近く」の国語辞典での意味

国語辞典で「近く」を調べてみます。
すると
・近い所
・近所
・近辺

とあり、例文として
・駅の近くに住む
が載っていました。

国語辞典は
日本語母語話者を念頭に置いて
作成されているので、
こうした解説になるのだろう
と思います。

少し理屈っぽく説明すると

「近く」とは
2点間の距離の長さを述べる時に使います。
A点が、B(基準)点となるところから
あまり遠くない所にある、ときに
使います。

・・・・・・B基準点(B)
・・・・・・・・ 
(例文)私の家学校の近くにあります。
・・・・・
・・・・/A点

 

 

 

 

(注)イラストの都合上、
学校と家が非常に接近しています。

2.「そば」の国語辞典での意味

「そば」を国語辞典で調べてみると、
・すぐ近く
・付近
と記載されており、
例文として

・駅のそばにある店

が載っていました。

3.「近く」と「そば」の違いとは?

「近く」と「そば」は
国語辞典で調べてみても
「近く」:近い所
「そば」:付近
といった記載で、
意味はあまり違わず、
たいていの文脈で
どちらも使えそうです。

そこで、同じ文に
「近く」と「そば」を入れ込み、
比較してみましょう。

「近く」と「そば」の比較

(1)山田先生の近くに座る

(1’)山田先生のそばに座る。

(2)駅の近くの銀行へ行った。

(2’)駅のそばの銀行へ行った。

(3)家の近くにある郵便局を利用している。

(3’)家のそばにある郵便局を利用している。

こうして
「近く」と「そば」の例文を比較してみると、
「そば」の方が「近く」よりも
距離的にやや近いと感じます。

図にしてみます。

 

 

 

 

 

 

※自分の家から、あるものが
「そば」にあると感じるのか、
「近く」にあると感じるのかは
個人の感覚によります。
しかし、
「そば」の方が「近く」に比べ、
距離が接近している、と感じます。

「そば」を中心とした分析

まず、
例文(1)(2)(3)をご覧ください。

(1)私の事務所は東京駅のそばにある。

この文は
基準としての東京駅のそばに、
自分の事務所がある、と言っています。

この例文では
中心となる基準点は東京駅であり、
私の事務所は
その基準点からごく近いところにあります。

(2)大統領のそばに記者たちが群がっている。

この文でも、
大統領が中心(基準点)であり、
記者たちは
付加的な要素となります。

(3)(田中さんは)鼻のそばに大きなほくろがある。

この文も
鼻が主(基準点)であり、
ほくろは従となります。

例文を見てわかる通り、
「そば」を使う場合は

AのそばのB」を
BのそばのA」とは言えません。

(3)の例文で言うと、

そばほくろ」は言えても、
ほくろそば」は言えないのです。


「そば」

<『』のそばの『』>
のように使います。

「そば」とは
となる事物のすぐ近くに、
となるものがある、
という意味になります。

今までは、
「そば」の客観的な距離関係について
見てきました。
しかしながら、
「そば」には
心情的な意味が含まれていることがあります。

「そば」の心情的な意味

「そば」には
距離的に近いというだけでなく、
「寄り添う」という意味もあります。

(1)母猫は常に子猫のそばにいる。

この例文(1)の「そば」
距離の近さだけではなく、
精神的な近さも表していると言えます。

例えば

(2)Aさんのそばにいて、助けてあげたい。

(3)Aさんの近くにいて、助けてあげたい。

上記の文でも
「そば」の方が、
「近く」より
親身になっている様子がうかがえます。

(2)の「そば」を使った例文を書いた人は
Aさんのことが
「好きなのかなあ」と思わせます。

(3)の「近く」を使った例文は
比較すると、
「友人として助けてあげたい」
というニュアンスになるでしょうか。

次に「わき」について
見ていきましょう

4.わき

「わき」とは
胸の側面、
腕の付け根のすぐ下に位置しています。

 

 

これが
もともとの「わき」の意味です。

位置詞としての「わき」
この原義から転じました。

位置詞「わき」の意味は
「主となるものの近くにある」ということで、
この点、「そば」と似ています。

位置詞の「わき」
両側にある必要はなく、

・先生のわきに座る。

・門のわきに自転車を止める。

上記の例文のように、
片側だけでも使えます。

図にしてみると、わかりやすいですね。

「わき」のイラスト

イラスト1

 

 

 

 


「わき」
主となるものの両側を指します。

「そば」よりも
さらに距離的に近く、
ぴったりくっついているイメージで、
主となるものと「わき」との間には
何も存在しません。

また、
両側だけでなく、片側でも
「わき」は使えます。

イラスト2例文
●道のわきに車を寄せる。
(道の、片側のわきに寄せる)

「わき」の位置は
両側、あるいは片側となりますが

「近く」「そば」の位置は
360度で使えます。

 

 

 

 

 

 

 

「わき」のニュアンス

「わき」
主となるものの横を表すので、
「わき」にそれる
といった使い方もあります。

 

 

 

 

 

 

わき見運転」や
「不良品をわきにどける」など、
「わき」には
「本来の正しい位置からはずれた」という
ニュアンスもあります。

「わき」「そば」「近く」の比較

●この3つの言葉を
基準点からの距離で比べてみます。

近い順に並べると

わき < そば < 近く

となります。

「わき」
両側(あるいは片側)だけを指し、
主となるものと「わき」との間に
他の物は何もありません。

「そば」「近く」
全方位に使え、間に
何かがあっても大丈夫です。

「わき」「そば」
となるものの近くにがある」という意味で、
」と「」の位置を変えることはできません。

(1)のそばにほくろがある。
(✖ほくろのそばにがある)

(2)のわきにほくろがある。
(✖ほくろのわきにがある)

●「そば」には
「君のそばにいたい」のように、
心情的に寄り添いたい、
という意味を含む場合があります。

「わき」には
「ボールがわきにそれ、ゴールに入らなかった」
のように、
中心(基準)から外れる、
という意味もあります。

余談ですが、
主役に対して「わき役」とも言いますね。
能楽でも、
主役のシテ(仕手)の相手は
ワキ」となります。

 

私たちは知らず知らずのうちに、
こうした細かい使い分けをしています。
「たいしたものだなあ」と
あらためて感じました。

 

ではではニゴでした。

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