~てください・その1

「~てください」は丁寧な依頼か?

形  : テ形 + ください
意味 : 丁寧な依頼(?)

「~てください」は
一般的には「丁寧な依頼」を表す表現だと言われています。
しかし、
本当に「丁寧な依頼」でしょうか。

参考書の言うとおり、
初級の学生に「丁寧な依頼」として教えてしまうと、
混乱が始まってしまいます。

なぜなら、
教室で教師がよく使う言葉は、例えば

(例1)本を開いてください。
(例2)テキストを読んでください。
(例3)この練習問題をしてください。

などなど、これらは明らかに教師からの「指示」です。
いつもよく聞いている先生からの
「~してくだい」
これが「丁寧な依頼」だと教えられると、
学生は訳が分からなくなってしまいます。

そこで、初めての
「~てください」は「指示」「依頼」「勧め」
のように、3つに分けて教えていきましょう。
(注:「~てください」は、この三つの用法だけではありません)

1.指示

(例1):(教師が学生に)→ホワイトボードを見てください。
(例2):(客がタクシー運転手に)→浅草駅まで行ってください。
(例3):(医師が患者に)→毎日、五千歩は歩いてください。

上記の例を見てもわかるとおり、
指示の場合は
聞き手が話し手の指示に従うことが当然だと思われる状況で使われます。

指示を使う立場の人は
相手にその行動をとらせることのできる権限を持っています。 例えば
警察官から一般の人へ、上司から部下へ、などです。

そこで、教える時には
誰から誰へ使う表現なのかを明確にすることが大切です。

(例1×):(学生から教師へ)先生、ここに座ってください。
(例2×):(後輩から先輩へ)先輩、これをコピーしてください。

上記の例のように、権限のない人から、権限のある人へ使うと
「失礼だ」と思われてしまいます。
教える時には十分な注意が必要です。

指示の答え方

「~てくだい」が指示の場合
「はい」「はい、わかりました」などと答えます。

(例)医師:食後にこの薬を飲んでください。
   患者:はい、わかりました。

(例)教師:キムさん、前へ来てください。
   キム:はい。

2.依頼

「~てください」は「丁寧な依頼」と言われています。
しかし、

(例1)この荷物を持ってください。

この例文は直感的には依頼というより、命令や指示であると感じます。
もし、ホテルでお客さんがポーター(荷物を運ぶ係の人)に言ったなら、
完全な「指示」となります。

(例2)お金を貸してください。

これは意味的には「依頼」です。
しかし、
この表現が使えるのは
●どんな状況で、誰から誰に言っている場合なのか、
を考えたとき、
非常に制約のある表現であることがわかります。

(自動販売機の前:ジュースが飲みたいけれど、小銭がない)
そこで、友達に
(例3)りえちゃん、100円貸してください。

ぐらいなら、かろうじて使えるでしょうか。

「依頼」というのは人に頼んで、お願いする、ということですから、
やはり、「すみません」などの言葉を付け足す必要があります。

(例4)すみませんが、手伝ってください。
(例5)すみません。ここで少し待っていてください。

こうすると、「あっ、お願いだな」と学生にもすぐわかります。

しかし、学生が教師に

(例6)先生、すみませんが、お金を貸してください。

と言った場合、どうでしょうか。
「すみません」」を付けたとしても、やはり、違和感はぬぐえません。

自分より立場が上の人に何かを頼む場合は
「~してくださいませんか」
「~していただけませんか」などなど・・・

のような表現を用いる必要があります。
つまり、

(例7)先生、すみません。この漢字の読み方を教えてくださいませんか。
(例8)先生、すみませんが、作文を添削していただけませんか。

このように言えると、とても丁寧ですね。

3.指示と依頼の違い

●問題です。
教師が学生にこう言いました。

(例1)陳さん、すみません。エアコンをつけてください。

これは、「指示」でしょうか。「依頼」でしょうか。

「依頼」のときには「すみません」をつけた方がいいと、
お伝えしました。

この例文は「すみません」がついています。が、
答えは「指示」となります。

「依頼」とは、あくまでお願いです。
お願いしたことを「する」か、「しない」か、の決定権は
言われた側にある、ということです。

それに反し、「指示」の場合、決定権は言った側にあります。

教師が学生に、上司が部下に
(例2)すみませんが、これをコピーしてきてください。

と「指示」した場合、
指示された側は、通常、断ることはできません。

「指示」(=命令)は
いくら「すみません」という言葉を使って依頼風にしても、
実質的な意味は変わりません。言われた側は断れないのです。

そこで、授業の時
●「指示」の場合は、そのまま「~してください」で行う。
(*「すみません」をつけて、依頼風にしない)

●「依頼」の場合は、「すみませんが、~してください」
と、必ず「すみません」を付け足す。
のように、形を統一して導入するといった配慮が必要です。

さらに、目上の人には
●「~してください」は使えないこと。 (「指示」も「依頼」もです)
「依頼」の場合は「~てください」の形ではなく、
●「~してくださいませんか」「~していただけませんか」
などに変える必要があることを
きちんと伝えなければなりません。

このことからも「~てください」を「丁寧な依頼」ということは
問題が大きいと言わざるを得ません。

続きの「~てください」・その2「勧め」を
ご覧になりたい方は以下をクリックしてください。

https://www.tomojuku.com/blog/tekudasai2/

ではではニゴでした。

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