武士と侍、どう違うのか?

あるテレビ番組では時々
外国の方からの質問を特集しています。

今回の外国の方からの質問がこれです。

「武士(ぶし)」と「侍(さむらい)」とは
どう違うんですか? 

武士?侍?


言われてみれば、
武士と侍は
どう違うのでしょうか?

私たち日本人は
わかっているつもり
になっているので、
こういうことが 
なかなか疑問として
思い浮かびません。

日本語教師にとって
こうした番組があるのは、
とてもありがたい。

もしかしたら、
学校の学生たちも
疑問に思っているかもしれません。

万が一聞かれたら、
これで答えることができます。
答えは
以下の通りです。

武士 ⇒ もともとは刀や鎧で武装した人のことを
     武士と呼んだ。

侍  ⇒ その武装した武士の中で
     誰かに仕(つか)えている人のことを侍と呼んだ。

武士と侍の成り立ち

「武士」「侍」の成り立ちは
それぞれ違います。
先に生まれたれた言葉は
「武士」です。

武士という言葉は
平安時代から使われるようになりました。

「武士」「侍」
この言葉は
時代背景と連動しているところがあるので、
まずは簡単に平安時代がどんな時代だったのかを
見ていきましょう。

平安時代(794年~1185年)とは

平安時代

794年に桓武(かんむ)天皇が
長岡京から平安京に都(みやこ)を移しました。
この平安京への遷都から
1185年、鎌倉に幕府が開かれるまの
391年間を平安時代と言います。


都が「京都から鎌倉へ」
変わったことからもわかるように、
平安時代とは政治の実権が
貴族から武士に移っていく過渡期だったと言えます。

貴族

平安時代前半
貴族が政治の主役であり、
彼らを守るために
武士が存在していました。

しかし、
その武士階級が
しだいに力をつけ、

さらに、
天皇のもとで
さまざまな任務を
こなすようになっていきます。

こうしたことを背景に
武士たちが徐々に貴族よりも
権力を持つようになります。


平安時代末期になると
力をつけた武士たちは
朝廷から独立し、

ついに
鎌倉の地に自分たちの政権を樹立。
ここに鎌倉幕府が成立し、
平安時代は終わりを迎えました。

こうした歴史的背景のもとに、
「武士」と「侍」
の違いが生まれてきます。

以下は名古屋大学名誉教授
町田 健先生のお話です。

漢字の「武」の意味

もともと、漢字の「武」は
武器を持って戦う人のことです。

そこから、
武器を持って戦う男の人のことを
「武士」と呼ぶようになります。

漢字の「侍」の意味

では、「侍」は
どのようにして生まれたのでしょうか。

まず
人々は自分の身を守るために
武器を持ちました。

これが
武器を持って戦う「武士」の誕生です。

「武士」は
自分たちの領地を守るため、
手に手に武器をとり、
襲ってくる相手を攻撃しました。


最初は あくまで、
自分たちを守るために闘っていたのです。

ところが、
争いが頻繁に起こると
「武士」たちの力は
次第に強大化していきます。

すると
都に住む貴族たちが
武士に守ってほしいと考え始めたのです。

一部の「武士」は
貴族からの要望に応え、
都(みやこ)に行き、
貴族に仕(つか)え始めます。

人に「仕(つか)える」ことを
昔は「さぶらう」と言っていました。

そして
「さぶらう(=仕える)」人のことを
「さむらい」と呼ぶようになったのです。

ここから

さぶらう → 侍(さぶら)う → 侍(=さむらい)

と表記するようになります。

概括すると、

平安時代、地方で武装していた人のことを
「武士」と呼んでいました。

時代が進むにつれ、
貴族がその武士を雇って、
警護をしてもらうようになります。

そこから、
貴族に仕(つか)える武士を
「侍」と呼ぶようになりました。

平安時代は 
このように
「武士」「侍」との間に
明確な意味の違いがありました。

 

では、なせ私たちは今、
「武士」と「侍」とを
同じ意味として、とらえているのでしょうか。

「武士」と「侍」の意味の変遷

平安時代は貴族社会でした。
それが、鎌倉時代になると
源頼朝のような「武士」が
権力を握るようになります。

つまり、武家社会の始まりです。

平安時代までは
貴族に雇われていた「武士」
「侍」と呼んでいました。

それが鎌倉時代になり、武家社会となると、
身分の高い、権力を持った「武士」
「武士」を雇うようになります。

武家社会では
「侍」
貴族に仕(つか)えるのではなく、
「武士」に仕えるようになったのです。

そして戦国時代を経て、江戸時代になると
「武士」のほとんどが
誰かに仕えていたので、
「武士」「侍」と言う言葉が
同じ意味として使われるようになっていきます。

こうした経緯で現在では
「武士」「侍」との意味が
ほとんど同じ言葉として認識されています。

<現在の「侍」のもう一つの意味>

現在では
「侍」の意味には
   相当な人物。気骨のある人物

といった意味もあります。

(例)社長に楯突くとは 彼はなかなかの「侍」だ。

 

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

 

言葉の意味は「文化」と深いつながりがある、
ということは理解していたつもりでした。

このように
「武士」と「侍」の
言葉の使われ方の変遷を知ると
「文化」と「歴史」とは
切っても切れない関係だということが
あらためて実感できます。

日本語教師とは「言語」だけに
目を向けていたのでは
足りないのかもしれません。

これからも
いろいろなことにアンテナを張り、
興味を持ち、学び続けなければと思います。

 

ではではニゴでした。

 

コメントを残す

CAPTCHA


サブコンテンツ

このページの先頭へ