シラバス(syllabus)その3
シラバスとは
学習項目、あるいは
授業項目の一覧表のことです。
今回はシラバスの「その3」となります。
「その1」「その2」を見たい方は
以下をクリックしてください。
シラバス・その1
【シラバスの概観と
構造(文法・文型)シラバスについて】
→シラバス(syllabus)
シラバス・その2
【場面シラバス・機能シラバスについて】
→シラバス(syllabus)その2
ここでは
・話題シラバス(topic syllabus)
・技能シラバス(skill syllabus)
・タスクシラバス(task syllabus)
などについて説明していきます。
まずは
話題シラバスからです。
話題シラバス(topic syllabus)とは
話題(トピック)シラバスとは
コミュニケーションで言及される
話題・トピックという観点から
組み立てられた学習項目一覧のことです。
例えば
話題シラバスで構成された
テキストの学習項目には
「ポップカルチャー」
「スポーツ」
「SNS」
といったトピック(話題)が並びます。
初級の段階では
日本語初心者でも学びやすい
「家族」「学校」「趣味」
といった話題が取り上げられます。
ある課の学習項目が
例えば「私の家族」という
トピックなら、
その課で学ぶ(話し合う)のは
「家族」に関することです。
その課の語彙・表現・文化背景などは
すべて家族に関連したものとなります。
そこで、
こうした話題シラバスのテキストで
(意見交換の方法などを)学ぶと、
そのテーマの事なら、
かなり詳しく話せたり、
みんなの前で発表できるようになります。
中級以上のクラスでは
(トピックによっては)
活発な意見交換が期待できます。
反対に初級クラスでは
簡単な対話とならざるを得ません。
このシラバスの強みは
話題が
学習者の興味・関心と合致した場合です。
その時には
学習者のモチベーションが
非常に高くなると予想でき、
かなり白熱した授業になることでしょう。
ニーズ調査をしかっり行い、
学習者にとって「魅力ある」話題を
提供できれば、
学習意欲も高まり、
学習がどんどん進みます。
逆に
学習者にとって
興味の持てない話題の時には
授業のモチベーションを保つことが
難しくなります。
また、
日本企業で働くビジネスパーソンのテキストには
・「日本の商習慣」
・「日本の人事システム」
・「顧客からのクレームを処理する」
といった、
実際に即したトピックも取り上げられています。
そこで、
教える側にも
その方面の専門的な知識があると
学習者からの信頼を得やすいと言えます。
次は
技能シラバスについてです。
技能(スキル)シラバス(skill syllabus)とは
語学学習と言えば、
「聞く」「話す」「読む」「書く」の
四技能をまんべんなく学ぶことだ、
と一般的には考えられています。
ところが
テキストの中には
四技能のうちのどれかを
「ピンポイント」で
学ばせるためのものがあります。
「聞く力」を鍛える、
「話す力」を鍛える、
「読む力」を鍛える、
「書く力」を鍛える、
といった、
能力別のテキストです。
これが、まさに
「技能シラバス」
テキストです。
技能(スキル)シラバスとは
言語の四技能の中から、
一つを取り出し、
その技能を伸ばすための
具体的な指導内容を
リストアップし、
編集したシラバスのことです。
例えば
「読む力」を伸ばすために編集された
「技能シラバス」のテキストでは、
その学習項目には
・「メニューを読む」
・「新聞を読む」
・「小説を読む」
・「論文を読む」・・・
などといった細目が並びます。
「読む」対象が異なれば、
同じ「読む」でも、
違った能力を使います。
・「必要な商品名を理解する」のか
・「必要な情報を読み取る」のか
・「内容全体を理解する」のか
・「その文の奥にある
・さらに詳しい内容を読み取る」のか
などといった具合です。
私たちは
同じ「読む」という行為を
しているときでも、
目的によって
様々なスキルを使い分けているのです。
もう一つ、
「書く力」を伸ばすために編集された
「技能シラバス」のテキストを見てみましょう。
その学習項目には
・「メモを取る」
・「メールを書く」
・「履歴書を書く」
・「手紙を書く」
・「自己PRを書く」
・「会議の議事録を取る」
・「報告書を書く」
などといった
「書く」という技能に特化した
非常に具体的な項目が並んでいます。
学習者の中には
四技能のうちの、
この「技能」を特に伸ばしたい、
と願っている人もいます。
そうした学習者にとって、
この「技能シラバス」型のテキストは
強力な味方となります。
しかしながら、
「技能シラバス」のテキストは
学習者の能力がすでに
かなりある場合に使える内容となっています。
初級者が学ぶには
かなりの工夫が必要となります。
次は
タスクシラバスについてです。
タスク(課題)シラバス( task syllabus )とは
ここで言うタスクとは
学習者が何らかの目的を達成するために
行う言語活動を指します。
例えば
「銀行口座を開く」
というタスクの場合、
ゴールは実際に
日本で銀行口座を開くことになります。
つまり、
タスクをやり遂げる経験そのものが
実践的なコミュニケーションにつながっていくのです。
授業では
タスク達成に必要な言語活動を
何段階かに分けて、
実践していきます。
このタスク(課題)シラバスの目的は
日本語を使った実践力の養成であり、
文法や文型の形式を
覚えることではありません。
大切なのは
言語活動を通して
「タスク(課題)を成し遂げる」
能力を育てていくことです。
また、
そのタスク(課題)は
ニーズ調査の結果に基づいて、
選択されます。
そこで、
そのタスク(課題)を実践していく
言語活動のプロセスそのものが
学習者にとっては
極めて有用で、
実用性の高いものとなります。
ただ、
上記のようなタスク(課題)を遂行するためには
教室の外へ出ていく必要があり、
効果があるとはわかっていても、
授業に取り入れるには
ハードルが高いと言えます。
初級の場合のタスク(課題)には
「スーパーで日用品を買う」
「図書館で本を借りる」
「旅行の計画を立てる」・・・
など、
日常生活に役立つ、実用的な課題が並びます。
タスク活動のシラバスとは
学習者のニーズにこたえる、
上記のような
様々な「言語活動」一覧ということになります。
また、
タスク活動は実社会に即した活動であるため、
リソースとしては
新聞、パソコン、
テレビニュース、webニュースなど
様々な本物の教材が使われます。
タスク(課題)シラバスのテキスト
タスクシラバスのみで
構成されているテキストは
日本ではまだ、見たことがありません。が、
国際交流基金の
『まるごと』というテキストは
異なる学習方法で教えてもらうため、
「かつどう」シリーズと「りかい」シリーズの
2パターンのテキストを用意しています。
そして、
それぞれのテキストに合った
異なる学習方法を提案しています。
「かつどう」シリーズの学習方法としては、
『コミュニケーションのための言語活動を中心に進めます』
と、記載されており、
タスクシラバスを意識していることがわかります。
また、
テキスト作成の目的として、
『課題遂行能力(言語を使って課題を達成する能力)と、
異文化理解能力(お互いの文化を理解し尊重する能力)を
育成する実践をサポートし、日本語を通じた相互理解を目指します』
と謳っており、
「かつどう」の基礎部分は
タスクベースに基づく教授法を
採用していることがわかります。
かなりタスクシラバスの比重が
高いテキストです。
まとめ
今まで
主なシラバスについて
解説してきました。
現代のテキストの多くは
一つのシラバスで構成されているわけではなく、
ほとんどが複合シラバスを採用しています。
それは
日本語学習者の学習目的が多様化し、
単一のシラバスでは
カバーすることができなくなっているからです。
私たち日本語教師も
変化に対応できる力をつけることが肝要です。
常に一人ひとりの学習者を観察し、
テキストに記載された内容を
そのまま教えるのではなく、
学習者の目的に沿った教え方を見つけていきましょう。
教科書を使いはするけれど、
大事なのは
学習者の学習目的を達成させることです。
自分の学習者にとって
何が必要なのか、
どんなシラバスが適しているのか、
どんな教え方が力を伸ばせるのか、
日々考えながら、
授業を工夫していきましょう。
ではではニゴでした。